July 29, 2022

Carr Graphic 14th(blog-7) 死時計 / Death-Watch (1935)


carr_banner


Death-Watch

※事件発生の夜バージョン
(画像をクリックすると大きく見られます)

Death-Watch

※現場検証の朝バージョン
(画像をクリックすると大きく見られます)

〈あらすじ〉
「時計師の仕事場に泥棒が忍び込み、時計の針を盗み取る。ほかにはなにも盗られたものはないし、手も触れられていない。盗られたのは、とりたてて値打ちのない時計の針だけだ……」フェル博士が友人のメルスン教授との観劇のあと、宿へ向かって夜道を歩いていると、時計師カーヴァーの屋敷に警官が乗り込もうとしているところに出くわす。屋敷には男の死体が転がり、傍にピストルを持った男がたたずんでいた。しかし殺しはピストルによるものではなく、時計の針盗難事件と意外なつながりを見せた……!

〈会員からのコメント〉
 創元推理文庫版(吉田誠一訳)を読了。
 初読はやはり創元推理文庫の宮西豊逸訳で、中学の時に読みたいと話していたら、同級生がくれたもの。当時入手難の作品だったため、とても嬉しかった。
 カーは真犯人を隠すために、あの手この手を使ってくるが、この作品では心理面と物理面での隠蔽方法を繰り出してきて、かなり意外だった記憶がある。
 今回の再読では、犯人もトリックも大体覚えていたのだが、デパートの切り裂き女についてはすっかり忘れていて、新鮮に驚くことができた。【角田】
---
 創元推理文庫で再読。内容を全く覚えていなかったので、怪しさとスリルに満ちた扉の内容紹介を読んで期待に胸が高鳴ったのだが…。
 ストーリーにあまり起伏がなく、盛り上がりに欠ける。『死時計』という凄みのあるタイトルの割には、凶器としての時計の針や髑髏時計の扱いが淡白で物足りない。
 犯人の動機はかなり迂遠なもので、「そんなアホな」と思うか、「なんと異様な動機なんだ」と思うか、人によって評価は分かれるだろう。
 カーをほぼ発表順に読んできたが、この作品からいろいろ無茶が目立ってきたような気がする。本編よりも、扉の内容紹介の方が面白かった。【奥村】
---
 被害者は時計の長針で刺し殺されており、凶器の針は短針と共に盗まれていたものだった。
 この設定はカーならではのものだろう。真相をじっくりと考えると疑問点も出で来るのだが、まあそれはカーの「剛腕」ということで容認しようと思ってしまう。【谷口】
---
『死の時計』(喜多孝良訳/ハヤカワポケミス)で読みました。
 フェル博士物の第5作。完全犯罪を語り合う二人の男。天窓からその様子をうかがう青年。彼らの前に、首筋を刺された男がよろめき入ってきた! 読了すると不可能興味が強い作品と分かるのですが、それが読者に伝わらない点が残念。女性の登場人物が、並行して捜査されるデパートの万引き事件の容疑者候補としてしか機能していない点も勿体なく思います。なお、本書には、デパートの宝飾品売場で万引きを働いた女性客が、捕えようとした店員をナイフで刺殺する場面がありますが、横溝正史はこれに刺激を受けて短編「黒蘭姫」(人形佐七物の「万引き娘」も同趣向の作品)を書いたのでは? と思いました。【廣澤】
---
 フーダニットに注力したカー作品という触れ込みだが、アリバイはともかく心情的にはちっとも意外な犯人ではない。覆面捜査の失敗を次なる覆面捜査でリベンジする的な最後の捕物の趣向は、フェル博士よりヘンリー・メリヴェール卿モノに近いと思うが、一方で作中にバンコランの名前が出て来るところに、カー作品の小宇宙を感じる。だが、本作でもっとも驚くのは、プライドが高く他の容疑者を陥れる犯人像、あるいはそのものズバリのアリバイトリック、さらには犯人に心理的圧迫をかけて自白に追い込む探偵側の手管等、下敷きにしたのではないかと思うほど、フィリップ・マクドナルドの『鑢』と似ているということである。【青雪】
---
 創元推理文庫の吉田誠一訳の裏表紙に使われている地図は、Dell Mapbookの地図のパクリだ! どこにも書いてないのはいただけない。せっかく良い作品なのに、こんなところにケチがつくとは。【沢田】
DeathWatch_PB

---

次回blog掲載は「一角獣殺人事件」です。
Continue to ... : The Unicorn Murders (1935)

crossgully at 22:16│clip!Carr Graphic