November 2022

November 30, 2022

Carr Graphic 18th(blog-9) パンチとジュディ / The Magic Lantern Murders(1936) (aka The Punch and Judy Murders)


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The Magic Lantern Murders

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〈あらすじ〉
 H・M卿から突然の呼び出しを受けたケン・ブレイクは、イヴリンとの結婚式を翌日に控えた忙しい身を割いて、ある元スパイの屋敷への潜入捜査へ向かうことになった。情報部への協力を申し出てきた真意を探れというのだ。ところが潜入早々に毒殺死体を見つけてしまう。そして足止めを食うわけにはいかないと警官たちの前から姿をくらましたことで、追われる立場に。はたしてケンは無事にイヴリンと式を挙げることができるのか……?

〈会員からのコメント〉
 滑り出しは冒険物のようだが終盤は本格物になり、最後にはしっかりとオチが付く。
 ウッドハウス風のユーモアで包まれた作品なのだが、日本語訳では笑いにくいかもしれない。【谷口】
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 ポケミスの村崎敏郎訳を読了。早川ミステリ文庫で新訳が出ていたのは知らなかった。
 『一角獣の殺人』、『アラビアン・ナイトの殺人』と続いた、カーのファットダニット三部作もようやく終わる。こういうのに気付くのも、年代順に読む醍醐味だろう。
 現場の奇怪な状況や、ほぼ同じような状況で出現した第二の死体の謎は、中盤の早い段階であっさり底を割ってしまい、後はやや退屈な訊問続きになってしまうのが残念。
 それにしてもカー作品の事件は、概ね解決までの時間が短いのだが、本作はデッドラインが最初から決まっているという最も厳しい状況だった。【角田】
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 結婚式を翌日に控えたケン・ブレイクが無理やりに引き受けさせられたH・Mの依頼は、初めはそれほど難しいとは思えなかった。ところが想定外の事態が次々に起こり、何が起こっているのかさっぱりわからないことに。ケンと婚約者のイヴリンは間に合うのか?
 カー初心者に勧める本ではないが、読み返すとカーが何をやりたかったのかよくわかる。【沢田】
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 新訳で約30年ぶりの再読だが、初読時の記憶が全くない。凡作だったのかと恐る恐る読み始めると、これが意外と面白かった。
 前半は、H・M卿物前作『一角獣殺人事件』同様、語り手のケン・ブレイクが警察に追い回されて窮地に陥るところがドタバタ調でコミカルに描かれる。嵐の古城という閉鎖空間でドタバタが繰り広げられるのでどこかゴタゴタしている『一角獣』と比べると、イギリス南部の各地を次々と移動する本書は、テンポがよく物語が進んで面白い。『三十九階段』や映画『007/ロシアより愛をこめて』を連想した。カーはイギリス冒険活劇の系譜にも連なるのだ。【奥村】
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『一角獣の殺人』の続編と言っていい、ケン・ブレイク大活躍のスパイアクション? 逃亡先での疑いの目という危機また危機をくぐり抜けるケン。遠隔地での同趣向のダブル毒殺の怪奇性は余り強調されないが、各人が推理を紙に書いて提出のくだりはテストみたいで面白いし、それがそのまま予想外の犯人(の◯◯)につながる仕掛けもナイス。とはいえ、H・Mが2人も殺した犯人に取った行動は理解し難い。だが、それより何より、ロマンチックコメディの最適解のような最後のオチに仰け反った。【青雪】
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 テキストはハヤカワミステリ文庫の新訳版(白須清美・訳)。
 H・M卿が探偵役を務め、ケンウッド(ケン)・ブレイクが脇を固める。
 H・M物の前作『一角獣殺人事件』で出会ったケンとイヴリン・チェインは本書で結婚することになる。こういった物語の継続性を楽しめるのが、発表順に読む際の楽しさだ。
 イヴリンとの結婚式の前日、ケンはH・Mから元ドイツスパイのホウゲナウア老人の屋敷への潜入を命じられる。その後、ケンは様々なドタバタ劇に巻き込まれるのだが、結末に至って一連の騒動には事件の真相につながる意味があったことに気づかされる。スパイ、ギャング、偽札、催眠術というガジェットには時代を感じてしまうが、笑劇に紛れ込ませた伏線の回収の見事さは、現代の視点からしても古びてはいない。
 終盤にH・M卿が推理合戦を提唱して、ケンやイヴリンが推理を披露するくだりは楽しく、回答をチャーターズ大佐に読み上げさせる、という趣向も非常に興味深いのである。【廣澤】
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次回blog掲載は「四つの凶器」です。
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