January 2022

January 27, 2022

Carr Graphic 8th(blog-4) 剣の八 / The Eight of Swords (1934)


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The_Eight_of_Swords


(画像をクリックすると大きく見られます)

〈あらすじ〉
 ハドリー警視が回顧録を執筆している出版社のスポンサーであるスタンディッシュ大佐が持つ別荘で、幽霊騒ぎが起きていた。宿泊者がポルターガイスト現象に遭遇し、ある者は別荘の隣家へ有名な犯罪者が向かっていくのを見たと言い張る。スタンディッシュ大佐がハドリーのもとへ相談に行こうという矢先、その隣家で密室状況の射殺事件が起きる! 死体の傍らにはタロットカード「剣の八」が落ちていた……。

〈会員からのコメント〉
 約三十年前に妹尾韶夫訳のポケミスで読んだのだが面白かったという記憶はなく、加賀山卓朗訳のハヤカワミステリ文庫を恐る恐る再読。第一章、変装学校の通信講座で教わったと言ってドイツ人の博士に変装して現れたり、アメリカ旅行の珍道中を報じた新聞記事を自慢げに見せびらかすフェル博士の悪ノリぶりに大笑いしてしまった。カーのギャグと加賀山卓朗の訳は相性がいいようだ。妹尾訳はフェル博士が丁寧な口調なので、この辺の面白さが伝わってこない。
 冒頭こそドタバタ調で登場したフェル博士だが、概要を聞いただけで事件の構図を推理し、名探偵ぶりを発揮する。しかし、それで事件が解決するわけではなく、新たな事実が判明して、探偵作家、犯罪好きの主教、刑事志望の主教の息子がそれぞれ独自の推理をする展開が楽しい。【奥村】
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 早川ミステリ文庫版(加賀山卓朗訳)を読了。
 初読はポケミスの、妹尾韶夫訳だったのだが、フェル博士の言動が他の訳書とあまりに食い違っていて、違和感を感じていた。
 ところがカーを年代順に読んでいくと、本作はフェル博士登場の僅か3作目であることに気付いた。そうすると、訳者が他の作品を未読の可能性もあり、ああした訳になるのもやむをえないのかなと思ってきた。
 もう一つ驚いたのが、名脇役のハドリー警視が、もうじきロンドン警視庁を勇退するという記述があったこと。かーは、ハドリーをあまり気に入ってなかったのだろうか。まあ、それでも本作の後も、ハドリーは出続けるのだが。【角田】
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 カーの作品なのに、不可能犯罪が出てこない。しかしながら、無類に面白い。犯人探しに特化したからだろう。つまりこれがカーのミステリ作家としての基礎力なのだ。【沢田】
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『帽子蒐集狂』と『ローマ帽子』、『剣の八』と『シャム双子』(『剣の八』とは一年違いだ)、あるいは『ハートの4』。カーとクイーンにはなんとなく並べたくなる作品が多い。
 この企画でカーを初めから読んでいって印象的に残っていることの一つは、カーがフーダニットの決め手として持ってくる手がかりの意外さである。
 今回の決め手となるロジックもそうとは言い切れんだろうと思わないこともなかったが、まさかこんなものが手がかりになるとは、こんなものからそんなことがわかるとは、そうした意外性は十二分に堪能できる。
 意外すぎて、奇妙な味わいすらそこに生じてるように思う。【大淵】
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 探偵同士がしのぎを削る推理合戦の趣向はバンコラン時代にもあったが、今回フェル博士に対抗するのは自信満々の主教に推理作家その他諸々。だが、中盤以降はフェル博士の一人勝ち状態。被害者の夕食が食べられたのはなぜか? という魅力的な謎はあるものの、ポルターガイストやタロットカードの扱いといい、意外だが唐突な犯人といい、腰砕けな感も強い。とはいえ、これまでの作品より登場人物が現代的で読みやすい。また『三つの棺』に先んじたメタ発言(これは最後の章なんだ。早くすっきりしたいのだよ)も面白い。【青雪】
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 ギデオン・フェル博士物の第3作。
  ずっと「けんのはち」と呼んでましたが、「つるぎのはち」が正しいと気づきました。
 最初に読んだのはポケミスが1600番突破した記念で、函付きで復刊された20冊中に本書があり、そこで手にとった。
 現在は、ハヤカワミステリ文庫で加賀山卓朗の新訳(と、いっても2006年刊)版があるが、あえて最初に読んだポケミス(妹尾韶夫訳)に再挑戦した。
 妹尾は、読みづらい点もあるのですが、それは時代性を考慮せざるを得ないでしょう。なにしろ、当時は海外の習俗の情報も得づらく、タロットカードを「タロクのカルタ」と訳すしかなかった時期だったのですから(今だと、タロットカードの「剣の八」で検索すれば画像やその意味合いもすぐ分かりますからね)。
 本書に関しては、いろいろ気になる点があるのですが、2点だけ。冒頭で主教が階段の手摺を滑った場面の意味は何だったの? という点と警視庁を辞める決心で回顧録を書いていたハドリーがその後も何食わぬ体で登場する点です。【廣澤】
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次回blog掲載は「盲目の理髪師」です。
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crossgully at 21:30|Permalinkclip!Carr Graphic 

January 12, 2022

2022年賀状作成秘話

SRの会では、イベントでお世話になった作家の方などに
2016年から年賀状をお出ししています。
(昨年までの分はマンスリー434号で記事になっています)

図案はCarr Graphicでお馴染みの森咲郭公鳥さん。
毎年、干支とミステリにちなんだ作品となっていますが、
さて今年の趣向は…

2022年賀状作成秘話

年賀状のモチーフは、原則としてSRの殿堂入り作品から選ぶことにしており、2022年は『黒いトランク』にしました。「(白のない)黒いとら(寅)」が「トランク」を担いでいるというのがポイントです。
 絵の中には、本作品が書かれた当時に二島駅を発到着する機関車を入れたく思い、その機種が何か、そう簡単にわかるものではないところを、SRマンスリーで「鉄道と地図から眺めるミステリ」を連載中の井上さんにお問い合わせさせていただいたところ、二島駅を発到着する車両の基地(機関区)は、同じ筑豊本線の若松駅(にあった若松機関区)だと考えられ、当時、若松機関区にあった(黒いトランクを運んだ可能性のある)貨物列車を牽引する蒸気機関車であれば9600形ではないかとご回答をいただきました。
この場を借りて、井上さんと仲介の労を取っていただいた佐竹さんに、あらためてお礼申し上げます(それにしてもSRの方々の知識量の深さには驚くばかりです)。
 機種さえわかれば、あとはもうこういう時代ですので、ネットを駆使して画像を50枚ほど拾い集め、様ざまな角度からスケッチしました。結果としては、それらをデフォルメした、後ろ向きのデザインとなりましたので、これを見て9600形とはわからないと思いますが、単に頭の中で考えただけのものではない重みを持たせられたのではないかと思っています。
プラットフォームについては、残念ながら当時の二島駅の写真を見つけることができず、筑豊本線の他の駅を参考にして描きました。
 線路がX字に交差しているのは、作品中に出てくるトランクの「X」と、鹿児島本線と筑豊法線の交差(本当にこんなダイヤモンドクロスになっているかどうかは別として)の二つの意味を込めました。
 それから、これは余談ですが、皆さんは、本作品に登場するトランクが、横の長さが五尺六・七寸、縦と厚みが一尺と表現されていることを覚えていらっしゃるでしょうか。一尺が30センチとすると、縦と厚みが30センチ、横が168センチ〜171センチであり、かなり細長いもの(言っては悪いが
棺桶のような形状)となります。
 トランクに死体を詰めるというと、手足は曲げて折りたたんで詰めるというイメージを持ちますが、当時の日本人の身長は、男性でも170センチを超える人はそう多くはなかったと思いますので、このトランクにはそのまま寝かせて入っていたのだと思います。ただし、その縦横比を忠実に再現すると、トランクらしいトランクには見えなくなってしまいますので、寅には、もう少し一般的な形と思われるトランクを担がせました。
                           終わり


                        
sr2022
k05


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