September 2021

September 30, 2021

Carr Graphic 4th(blog-2) 魔女の隠れ家 aka 妖女の隠れ家 / Hag's Nook (1933)



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〈あらすじ〉
 田舎町チャターハムに暮らすギデオン・フェル博士を訪ねた青年タッド・ランポールは、当地のチャターハム監獄にまつわる不気味な言い伝えを聞かされる。代々監獄の長官を務めるスタバース家では、その当主は首の骨を折って死ぬのだという。スタバース家の新たな当主になるための相続の儀式として、監獄の長官室でひとり一夜を過ごすことになったマーティン・スタバースは果たして、「魔女の隠れ家」と呼ばれた絞首台近くの崖下で、首を折って死んでいるのが見つかった……。

〈会員からのコメント〉
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 東京創元社版(高見浩訳)を読了。
 フェル博士初登場で、カーが怪談を長編に取り入れた初めての作品と思う。作中で綴られる監獄長の日記は、分量は短いが本当に怖い。
 ミステリとしては、登場人物が少ないので、犯人の見当が早めについてしまうのが残念。そして今回再読して、卑劣漢の犯人にも関わらず、フェル博士が自殺を促すのにはちょっと違和感を感じた。
 なお本作の解説(戸川安宣氏)によると、フェル博士はこの事件の時に、まだ四十七才だったらしい。【角田】
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 読んだのは、ハヤカワ・ミステリ文庫版の『妖女の隠れ家』。
 フェル博士などいわゆる専門家ではない人間が暗号を解くきっかけを作るのは、ユーモアもあり良い。
 この作品で意外な犯人を作り出しているのが『皇帝のかぎ煙草入れ』と同様のトリックだったことに、読み返してようやく気付いた。最終盤の犯人の告白文で自然にフェル博士の推理が明らかになる手法は、カーのテクニックの勝利だ。【沢田】
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 初登場のフェル博士を見てまず思うことは、カーは本作を書き始めた段階ではフェル博士をシリーズ探偵にするつもりはなかったのではないか、ということである。始めにそれまでにも難事件を解決してきたという言及はないし、フェル夫人も登場して結構お道化ているし、最後に近くなってから唐突に「スコットランドヤードに顔がきく」ような話が出てくる。結末近くになってフェル博士の設定を変えたのでは?
 で、記念すべきフェル博士初登場の事件だが、密室ではなく、「謎の墜落死」である。カー自身が晩年に追求したテーマの原点はフェル博士初登場の事件にあったのだ。【谷口】
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 ギデオン・フェル博士の初登場作。戸川安宣氏の解説によれば、この時のフェル博士は47歳。自分より年下なんだ、と驚きました。
 バンコラン物は、ジェフ・マールという記述者の視点でしたが、本作では三人称多視点を採用します。具体的には、タッド・ランポールというアメリカ青年を視点人物にし、時々執事バッジの視点に切り替える、という構成としたのですが、この変更が奏功して、物語に動きが出ています。
 フェル博士には奥さんがいたのですね。初めて知りました。キャラクターが旦那さんと被りすぎているので、その後あまり登場しなくなったのでしょうか?【廣澤】
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 バンコラン物を四作続けて読むと、濃密な怪奇趣味とバンコランの隙のないキャラにちょっと息苦しくなってきたところだった。フェル博士初登場作は、怪奇趣味に加え、イギリスの田園地帯ののどかな雰囲気と、フェル博士のユーモラスなキャラが渾然一体となって、豊饒な物語が紡ぎだされている。これぞカーの世界!至福の読書を味わえた。
『三つの棺』の密室講義に先駆けて、フェル博士がちょっとした暗号講義をしていたことに、今回の再読で気付いた。【奥村】
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次回blog掲載は「毒のたわむれ」です。
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